『斜 面』 「ドイツのノーベル賞作家、ギュンター・グラスの代表作「ブリキの太鼓」は、故郷ダンチヒ(現ポーランド・グダニスク)を舞台にナチスの時代を描いた。 主人公は3歳で自らの成長を止めた少年オスカルだ 独裁と戦争への異議申し立てか。オスカルの目は大人たちの狂気を映し出す。1979年公開の同名映画も反響を呼んだ。 その前年に生まれた須藤康花(やすか)さんは91年の湾岸戦争のころ、映画を観て衝撃を受けた。小欄で一昨年秋紹介した夭折の画家である 松本市にある康花美術館が戦争をテーマに開催中の企画展に木炭画「ブリキの太鼓」を展示している。オスカルに自らを重ね合わせ、康花さんが22歳のころ描いた。 大きな蛙の口の中からぶぜんとした少女が険しい目付きでこちらをにらんでいる 頭蓋骨や銃剣を題材にしたデッサンも会場に並んでいる。幼いころから病魔に襲われ、死と隣り合わせで精いっぱい生きてきた康花さん。09年に30歳で亡くなった後、 遺作を展示する美術館を開館した 父親の正親(まさちか)さんは言う。戦争の現実を想像できる心の目を持っていた―と 母親と訪れた20代の女性は「戦争がいかに恐ろしいか絵が伝えてくれました」とノートに書き残した。作家の仕事は絶えず異議申し立てをすること―。 グラスの口癖である。康花さんが絵に託した戦争への無言の抗議も共感が広がるといい。」 |